大判例

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最高裁判所第二小法廷 昭和52年(オ)769号 判決

上告人(原告)

中山敏次郎

被上告人(被告)

姫路市

ほか一名

主文

本件上告を棄却する。

上告費用は上告人の負担とする。

理由

上告代理人藤井信義の上告理由について

原審が適法に確定した事実関係のもとにおいては、被上告人らが本件過失又は道路の管理の瑕疵によつて上告人に対し、不法行為を構成するものではないとした原審の判断及び本件事故による損害額についての上告人の負担割合を六割とした原審の判断は、正当として是認することができ、原判決に所論の違法はない。論旨は、採用することができない。

よつて、民訴法四〇一条、九五条、八九条に従い、裁判官全員一致の意見で、主文のとおり判決する。

(裁判官 本林譲 大塚喜一郎 栗本一夫)

上告理由

上告代理人藤井信義の上告理由

第一 本位的請求について

一 原審はその理由に於いて次の通り説示する。

「当裁判所は、原審と同様、本訴請求はいずれも理由がないので、これを棄却すべきものと判断するものであつて、その理由は次の通り付加するほか、原判決の理由説示と同一であるから、これをこゝに引用する。」

「以上の次第であるから、控訴人の主張する損害は被控訴人等の過失のみによつて発生したものではなく、控訴人自身の過失がこれに加功することによつて初めて発生したものであつて、控訴人主張の損害と被控訴人等の不法行為との間には、相当因果関係を欠如するというべきであり、相当因果関係がない以上、被控訴人等の国家賠償法(被控訴人市に関し)及び民法上の不法行為責任を追求する控訴人の本位的請求は理由がない。」

二 原審は上告人の請求を斥けるに当り、第一審判決の理由を援用しているところ、第一審判決は、左の通り説示する。

「以上の通り、原・被告等は、いずれも本件事故につき共同不法行為者として被害者の相続人等に対し、損害賠償債務を負うべきであるから原告の無責任を前提として、損害の賠償を求める第一次請求は理由のないものと言わねばならない。」

三 即、原審が上告人の被上告人会社に対する民法不法行為上の責任並に被上告人市に対する国家賠償法人の責任の追求を斥けた理由は次の二点である。

(一) 上告人は被上告人等と共に共同不法行為者として、損害賠償義務を負うべきであるから理由がない。

(二) 上告人の小西の相続人に対する債務は、被上告人等の不法行為並に国家賠償法上の瑕疵との間に相当因果関係がないから請求は理由がない。

四 即、右の(一)は上告人に過失があるからというのであり、主観的なものである。

右の(二)は相当因果関係がないからというのであり、客観的なものである。

しかし乍ら、本訴は小西の相続人に対する上告人の責任の有無を論ずるものではなく、上告人は被上告人等に対し、民法不法行為上の責任並に国家賠償法上の責任の有無を論ずるものであるので、小西等に対する関係で上告人に過失があるとかないとか言う主観的問題は、本訴では問題外の問題である。仮に亡小西が道路の瑕疵に基づくことなく運転を誤つて道路に倒れていた場合、若しくは、上告人の運転する直前に小西が飛び込んで来た場合であるならば、上告人の小西の相続人に対する責任の有無並に賠償額の算定に於いては、被害者である小西の過失の有無並に上告人の過失の有無のみが問題であろう。しかるに本訴に於いては、道路の瑕疵の故に小西が上告人の進路の直前に横たわることになつたものであり、それ故にこそ上告人の責任の有無が問題になつたものである。仮に、右小西が道路の瑕疵の故に上告人の進路の直前において突如として横たわるということがなければ、上告人の運転方法の如何にかゝわらず本件事故は起らなかつた筈である。即、上告人の過失ということは被上告人等の瑕疵が原因となつて発生したものである。しからば上告人が被上告人等の瑕疵を原因として損害賠償を求める場合には、小西に対する関係で上告人に過失があるとかないとかいうことは関係ない筈である。小西の相続人に対して請求する場合には上告人に過失があるか否かが問題であるが、小西の相続人に対して賠償責任があることを原因として、第三者に損害の賠償を求めるものであるので、上告人に過失があれば請求の数額を判定する場合に考慮すればよい問題に過ぎない。その理由は、上告人の過失の表現は、被上告人の瑕疵を原因とするからである。即、被上告人瑕疵の故に亡小西は上告人の面前に突如として横たわることになつたものであり、それ故に本件事故は発生したものである。換言すれば、小西が道路の穴によつて転倒しなければ本件事故は発生しなかつたものであるので、被上告人の道路の瑕疵が上告人に対する関係で過失があるとかないとかいうことが問題になつている。換言すれば、上告人が納得し難いのは、上告人の過失の有無は被上告人の道路管理上の瑕疵に原因するものであるのに、原審並に第一審は右の事実を看過しているからである。右のような事実関係がある限り、上告人の小西に対する関係で過失の有無を論ぜず、上告人に対して被上告人は賠償の責任があると言わねばならない。

五 被害者亡小西に対し、責任の有無を論じた場合に被害者に過失があるのでその賠償の数額が減ぜられているのであつて、被害者小西の相続人に対し賠償責任が全免された事実は存しない。本訴に於いて、被上告人の上告人に対する賠償責任が上告人の過失の故を以つて減額されるならば話は別であるが原審並に一審は被上告人の上告人に対する責任を全免している。右の点が納得し難い点である。道路管理上の瑕疵に基づく被害者は、単に亡小西のみに止るのではなく、民法不法行為上若しくは国家賠償法上の条件事実を充足するならば、被上告人等は被害者上告人に対しても又その責めに任ずべきである。その責任が全免されるか一部に止るかは、過失の度合の如何によることである。

六 道路は幅員六・五メートルの狭い道路であるが(乙第十六号証、第十七号証、乙第四六号証の第十五項参照)、現実には両端に草が密生し通行可能な部分は右より未だ狭いと見なければならない。右狭い道路の中央に次の二つの穴があいており、小西はその内の大きな穴につまずいて転倒して倒れたものである。東西一・四メートル、南北一・六メートル、一番深い所が十・五センチメートルの大きな穴と東西一・三メートル、南北一・一メートルの小さな穴である。本件事故当時(昭和四七年九月十八日午後九時二十分より同九時五十分迄)の現場の穴くぼみは路面上で三ルツクスであり、当夜は半月で弱い月明りしかなかつたので相当暗かつた。(乙第十八号証)その薄暗い道路を通勤者が十数名並走していたので、道路に横たわつた小西を見出すことは容易ではなかつた。かゝる交通情況の下において、道路に横たわる人間を見出して道路を通れということは通常不可能である。従つて、仮に上告人に小西の死亡につき過失責任があつたとしても、その過失責任は軽い過失と言わねばならない。それ故に損害賠償の数額において考慮されるは格別、上告人が道路の管理の瑕疵者に対し全然請求が出来ないということは甚だしく失当である。

七 次に被上告人の道路管理上の過失と上告人主張の損害との間に相当因果関係がない旨の判断の当否につき検討する。

道路に前記主張のような瑕疵があれば、車両の運転者が穴にはまつて転倒することは通例起ることである。本件の場合に於いても九月十七日の午前中に宮田史郎氏が穴にはまつて転倒した事実がある。右は午前七時五五分頃のことで、昼間であるにもかゝわらず転倒したものである。(乙第二五号証、宮田史郎供述調書)即、本件穴は穴の為に亡小西毅が転倒したのみならず、宮田史郎も同様である、その他にも穴にはまつた人はあり、道路に前記のような穴があいておれば穴へはまつて転倒して負傷するということは通常起ることである。そして通行者の直前で道路に転倒して横たわれば、薄暗い道路を運転する運転者がその横たわつている人を轢いて走ることはあり得ることである。特に本件の場合に於いては、小西が上告人の運転を追抜いて上告人の直前に於いて穴にはまり転倒した事実があるからである。本件の場合、小西氏や宮田氏竝に上告人にいづれも穴があつたから穴にはまつて転倒したものである。

以上のような事実関係の下に於いては、車両の運転手が穴にはまつて転倒すること並に転両の運転手がその転倒した人の上を乗越えて行くことは、運転者の過失の如何にかゝわらず通常あり得ることであるから、被上告人の瑕疵と上告人主張の損害との間には、相当因果関係があるものと言わねばならない。しかるにこれを否定した原審の判断は経験上の法則に違背するものであり、違法である。

第二 予備的の請求について

八 原審は予備的請求について左の通り判示する。

「控訴人と被控訴人の間に於いて、その過失割合についての原審の認定をくつ返すべき新な証拠はない。」

第一審は左の通り説示する。

「本件について考えてみるに、本件事故は前示認定(第一項2(二)(1)(2)(3))の各責任事情、特に原告に於いて道路状況に即応出来るよう徐行し、且つ、前車との間に適当な車間距離を保ち、前方を注視するという注意義務を十分つくしていなかつた事に鑑み、被告等のそれに比して原告の責任は特に重く、その責任に照してその負担分を原告六、被告市、被告会社各二と判断する。

九 即、原審の判断は一審判決の判断をくつ返すに足る証拠がないというのであるが、本件交通事故に関する第一審判決の当否については何等の判断を示していない。本件交通事故を分析的に判断すれば或は第一審判決の判断通りになるかもしれないけれども、これを総合的に考察する限りその結論は逆になることもあり得るからである。

蓋し、ある行為は一定の状態の下においてなされるところ、その状態は人の行為によつて作られることもあるからである。

本件において、上告人が訴外小西に追抜かれた直後、小西が道路の穴にはまつて転倒したその行為の故に上告人に轢れるという結果が発生したところ、小西が穴にはまつて転倒するという事実関係がなければ、上告人の行為に過失があるとかないとかいう問題は起らない。右の意味において、小西の転倒という状態をつくり上げたのは、被上告人等の道路管理上の過失である。上告人の行為が過失に該当するか否かという問題の根本は、被上告人にあるので過失の割合は被上告人が上告人のそれより重いと言わねばならない。

しかるに原審は右の点を看過して上告人の過失責任が被上告人より重いと判断したことは違法であり、原判決は此の点において破棄を免れないものと信ずる。

以上

上告人の上告理由

第一 原判決の判断に不服の点

一 「左寄り通行する事はもちろん」の件について

道路状況は、昔の農道を簡易舗装したもので左、右は草むらと溝と川で簡易舗装は左、右共に路肩部分は乱雑な舗装で路面、左右の端が出たり入り込んだり破損曲線状で地下パイプの開閉栓の蓋が突起したりしていました。実際の通行可能幅は二米四〇糎程なのです。書類には六米もあると書いてありましたが、両端の幅の広い草むらの部分や簡易舗装の両端の破損部分出たり入り込んだりの部分まで全部合算しての幅員なのです。対向車のない限り誰でも安全な中央寄りを通行するのが常識な道路状況なのです。

二 車間距離の問題について

車間距離の不保持だとの結論の様ですが現実と全然内容が違います。私が先に走行していましたが穴より後方八〇~一〇〇米の地点で小西さんが私の左側へ接近してきましたが私は別に何も思わなかつた。ところが私より幾分速い速度で小西さんが追い越し、穴より後方、三〇米程の地点で小西さんの後車輪と私の前車輪を継ぎ合わせた様な格恰になつたのです。ここで私の(四十五km)速度で穴に達する迄の秒速計算をしてみて下さい。急拠ハンドルを切り避けるより方法がないじやありませんか。直前で転倒されてはどうしようもありません。ブレーキを完全に踏む余裕もありません。書類には七米の車間距離で漫然と追随していたと書いてありますが、全然間違つた事、私の当時の胸中にない事を書いています。私は絶体にそんな事言つた記憶はありません。何にも長い距離に亘り小西さんに私が追随していたのではなく、穴より三〇米後方で小西さんが追い越したからこそ私が追随した様な形になつたんじやありませんか。今迄車間距離の件については何回も言つているのです。例外でしようが私を是非呼び出して下さい。文面と現実は大きくかけ離れています。

三 工事後の仮舗装の件について

台風の雨を利用し手抜き工事をごまかし言い訳ばかりしています。それが証拠に事故後四~五日してから穴の部分のみ仮舗装していましたが、一度だけの仮舗装で十ケ月間も(道路を拡張して完全舗装する迄の期間)ビクツともしなかつたじやありませんか。こゝではつきりズサンな工事が立証されるじやありませんか。

四 穴の補修依頼の件について

事故現場の近くに居住する町内の防犯掛の橋本英男さんは上告人に対し「穴で何人もの人が怪我をするので何回も直してくれ」と言つたが補修してくれないので、橋本さんは「スコツプを持つて何回も直しに行つた」と言いました事実です。この件についても本件事故以前に何人もの人が転倒や怪我をし名前を明記して又、橋本さんの名前も書き提出しているにもかかわらずたゞ不可抗力の様になつた中山にひいた中山にと責めるのは私は全つたく理解出来ません。十分調査御審理下さい。

五 穴の前方左側に土砂の盛り上がりがあつた件

簡易舗装と土砂が地盤が弛んで二~三米の長さに盛り上がりしているのに放置していたではありませんか。高い所、低い所を通行すれば単車の場合は転倒するではありませんか。そういう場所があるので皆んなが中央寄りを通行する様になるのです。たゞでさえ両端が危険な道路なのに、そんな場所まで補修せず放置していました。私は以前からめつたに通行したことのない道路ですが後になつて思いました。あの道路は2km程の長きに亘り左寄りは極力避けなければいけない道路状況だと思つた。市や業者は道路状況をよく知り乍ら又、穴のあいているのを以前から知り乍ら補修もせず、点滅標識もせず放置していたとは全つたく理解出来ません。

以上

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